40年以上にわたり家族、特に親子関係の研究に従事し、親になる人々のためのクラスや未就学児童のための学校を開設するなど、親子教育の専門家として活動。家庭教育と子育てに関するコンサルティングの第1人者。4人の子どもを育て、孫が8人、ひ孫が6人、やしゃごが1人いる。著書「子どもが育つ魔法の言葉」は国境を越えて37カ国で親しまれ、特に日本では200万部のベストセラーに。ほかにも「十代の子どもが育つ魔法の言葉」「ドロシーおばさんの大切な事に気づく」など著書多数。2005年11月6日他界。
親の言いつけを守る「いい子」だったはずの子どもが、ティーンエイジになって突然、暴力的になる。あるいは学校や社会に適応できず、殻に閉じこもってしまう。そんな問題行動を私もしばしば目にしてきましたが、やはり小さい頃からの家族関係、親が子どもにどう接してきたかが大きく影響していると思います。
極端に切れやすい子どもの例で多いのは、まず親の期待値が非常に高すぎるケースです。もっと優秀であってほしい、将来こういう職業についてほしいとか、親の理想や果たせなかった夢を押し付けている。更に家庭内のルールを、親が自分たちの都合や好き嫌いで一方的に決めてしまっている場合、子どもの不満がたまり、何かのきっかけで爆発するということが起こりがちです。
食事の後は直ぐに食器を片付ける、テレビは宿題が終わってみるといった、日常生活を効率よくきちんと送るためのルールは「親が決めるのが当たり前」でしょうか?私はそうは思いません。そのルールがなぜ必要なのかを子どもに説明し、話し合って決めていくべきです。たとえば玩具を散らかしっぱなしにしていたら、誰かがつまずいて怪我をするかもしれないから片付けなくちゃね、と説明すれば子どもも納得がいくでしょう。もし「友達と遊ぶ約束をしたから時間がない」といったら、今片付けられるものは直ぐに、残りは帰ってから片付けさせるとか、本人にとって無理のない約束をし、それを守らせることです。
また、子どもは失敗から多くのことを学びます。悪いことをしたとき、親は何が正しく何が間違ったことかを教える必要がありますが、傷つけるような叱り方をすべきではありません。叱りつける前に、なぜそんなことをしたのか、子どもの言い分にも耳を傾けて下さい。そして本当はどうすべきだったのか、子ども自身に考えさせ、正しい応えに導くことです。そういう小さなコミュニケーションの積み重ねが親子の信頼関係を強くし、難しい思春期にも大きくものをいいます。
どんな親も、子どもに「こう育ってほしい」と期待を掛けるものです。でも、その期待が本人の適性に合っているかどうかを常に考える必要があります。例えば、私の家の隣に住んでいた男の子は小さい頃から絵描きになりたがっていました。でも親御さんは「絵描きなんてばかばかしい。ビジネスマンになりなさい」と、たいへん厳しく教育していた。親としてはそれが彼のためと信じていたのでしょう。でも彼は14歳のときに家出し、行方知らずになってしまったのです。ご両親がどれほど衝撃を受けたかは言うまででもありません。
私にも三人の子どもがいますが、同じ兄弟でも個性は一人一人違います。親はその子に合った接し方をしなくてはいけないし、いいところを見つけて伸ばしてあげなくてはいけない。そして欠点も含め、全存在を受け入れてやるということが、ぜひとも必要なんです。
自分は、親が理想としているような子どもではない、丸ごと愛されてはいない - 子どもは、そういったことを敏感に感じ取るものです。親が「逞しいスポーツマンになってほしい」と望んでいるのに、自分は運動が得意ではない。試合に出たけれど負けてしまった - そんな時一番がっかりしているのは子ども自身です。
子どもは常に親の愛を必要としています。期待に応えたいと思っています。そこで「これができたら貴方を好きになってあげる」「こうゆうふうにできない子は嫌い」と愛情に条件をつけるような言い方をされたら、子どもはどう感じるでしょうか。条件つきの愛情は本当の愛情とはいえません。子どもの存在を否定し、○○することでもあります。どうか、ありのままのよさを認めてあげてください。そして「よく頑張ったね」と努力を誉めてあげてください。親の愛情のこもった誉め言葉は子どもを勇気づけ、生きていく力をはぐくむ魔法の言葉なのです。
親だって完全な人間ではないのですから、間違うこともあります。幼児期に子どもとの信頼関係が作れず、思春期になって困った問題が応じた場合、専門的なカウンセラーの助けを借りるのも一つの方法です。そして、失敗を認め、自分たちはいい親ではなかったけれど、いまはそれを修復したいと思っていると、子どもに対して伝えることも大事だと思います。
講演会でも良くお話しするのですが、いい家族関係を築くためには、3つのAと3つのCが大事なポイントです。Aとは、Acceptance(受け入れること)、Affection(愛されること)、そしてAppreciation(感謝の気持ち)。Cは、Caring(気遣い)、Connection(人との繋がり)、Communication(意思の疎通)。親に丸ごと受け入れられ、愛された子どもは、自分や人を愛することができ、感謝の心を知る人間に育ちます。そして家族が常に助け合い、心を通じ合わせていれば、子どもは親の意見を聞く耳を持ち、困難に遭遇したときも家族で話しあって乗り越えることができるでしょう。
そして忘れないで頂きたいのは、家族は社会という大きなコミュニティの一つの単位だということです。私たち人類は一つの大きな家族のようなものですから、家族関係が上手く言っていれば、子どもは社会でも円満な人間関係を作りやすい。また最終的にはコミュニティを豊かにするような、社会に貢献できる子に育てるのが親たちの責務でもありますよね。そのためには家庭での教育が不可欠ということです。
つまり、家族が仲良く安全に暮らしていくためにルールを決め、それを責任を持って守るのは社会生活の基本なのです。そしてもう一つとても大事なのは、家の中でも子どもに役割を与えることです。食事の片付け、ペットの世話など、年齢やその子のあった役割分担を決める。そうすることで、学校や社会で果たすべき役割を自分で見つけられる子になっていくと思います。またこの役割分担も、親が押し付けるのではなく、「私はどんな手伝いができる?」という子どもの自主的な言葉が聞けるように導きたいものです。
こういった、様々な思いをこめて書いた私の本を、皇太子殿下が読んでくださったのはたいへん名誉なことです。心から感謝し、お礼状を書かせていただきました。
日本の皆さんにも、子育てに迷った時には参考にしていただければ光栄です。また、子育てというのは両親のチームワークですから、是非ご夫婦で一緒に読み、話し合いの材料にしていただけたらすばらしいですね。
子どもが中々言うことを聞いてくれません。
A#1:親は回りくどい言い方をせず、何ごともごまかさず、一言一言を大切に伝える。例えば、「またおもちゃ、出しっ放しなんだから」ではなく、「おもちゃ、入れておいてね」という。
A#2:ああしなさい、こうしなさいという親の躾の言葉よりも、親のありのままの姿のほうを、子どもはよく覚えています。口で何かを教え込もうとしてもダメなのです。親がどんなふうに喜怒哀楽を表すか、どんなふうに人と接しているか。その大人の姿が、手本として、子どもに生涯影響力を持ち続けることになるのです。大切なのは、大人が自分の中にきちんとした軸を持つことです。
最近子どもが起す事件が多く、子育てに不安を感じています。
A:子どもにだけ特殊な事件が起きているのではないはずでしょう。大人にも悲劇は起きている。子どもが事件を起したといっても、その責任は、母親や父親との関係にだけあるのではない。格好、地域、教育機関、警察など地域全体で協力して取り組まなくては。いま親は時々深刻になりすぎる。子どもと一緒に楽しい時間を過ごし、一緒に笑うと、いやされることは科学的にも間違っていないはずよ。
子どもの振る舞いを見て「自分にそっくり!」と思うときが怖いのですが。
A:親は子どもにとっての完璧な手本になる必要はない。感情的になってしまったら、それを認め、子どもに謝ることができれば、それでよいのです。子どもは、そんな親の姿から感情的にならないように常に努力することの大切さを学ぶはずですから。覚えて置いてください。子どもは人を許す天才です。
年々ごとに出産率が下がっています。その理由としては核家族、子どもを育てる親は隔離されるケースが多くなっており、子育てが厳しい状況であると思われているからです。
A:子育てを始める前に難しい、無理だと思っている人には多分その通り、難しいでしょうね。しかし、「私はできるわ」といった姿勢で取り組めば違う結果が出るでしょう。勿論、子育てには楽しい面も大変な面もあります。それが子どもを育てることです。そして、母親は特に抱え込めないほどの肉体的、精神的な負荷を背負います。それが子育てです。大切なのはそれらをどのように思うことです。それらが子供を育てるプロセスだと思い、その時期を切り抜けるか、自分を哀れんで周囲の人間に八つ当たりするかです。後のケースですと子育ての問題より個人の内面的な問題になります。
現代の子育てにおいて親が一番苦労する点は何でしょう?
A:テレビ、ビデオゲーム、コンピューターとの戦いでしょうね。子どもが勝手に好きな番組を見る前にどのような番組が放送されているかを調べてください。家族全員がお互いを知り、自分を知ることは大事です。ルールを学び、心身共々健康な生活は何かを学び、それに適しているものは何か、適していないものや行動は捨てるということも学んでください。